*TGF2020*
 
前書き

TGF2020お疲れさまでした。楽しかったですね。

自分は今回初めてティラノゲームフェスの存在を知り、参加させていただきました。恐らく、大多数の方にとって白玉は見知らぬ存在でしょうから、突然の偉そうなコメントに「なんやこのサイコロ」と思われた方もいそうではありますが、その辺りはご容赦ください。これまではプレイ専でしたが、どうしても感想を残したい作品と出会い、手探りながらコメントを残しておりました。

今回100作ほどプレイしまして、感想は50ほど書きました。感じるものがあったものには感想を書き、書きにくいもの・書けないものには拍手だけを残しました。その辺りを含めて、ノベコレでは触れにくい内容について、こちらで綴りますので、好き勝手に書いていることを先に断っておきます。

基本情報として、日常系が苦手、探索ものや選択肢が多いものは避ける傾向、続きものは優先度が低めです。感情が大きく動く作品が好き、なので、超短編はあまりプレイしておりません。感想は作品の情報量が多いほど長くなっています。

1ページ目は、個人的に特に気に入ったもの。2ページ目以降は大体長さや見た目を基準に、後ろに行くほど短編になっています。上部のタイトルで作品にリンクしています。「前書き」からは自作の「幸せな毎日を夢見る」へ飛びます。まあまあ面白いのでぜひどうぞ。

思い返せば、ここまで多くの作者および作品に触れることは、これまでにありませんでした。遊ばせて頂いた中には力作も多く、「こんなに素晴らしい作品を作れる方がこんなにもいるんだなぁ」としみじみ思いました。他の方も同じように思い、またその末端に自分も加わることができたなら、幸せなことですね。

 
螺旋卵形線チェルアルコ
▶感想

白玉グランプリです。プレイした中では圧倒的で、明らかなレベルの違いを感じました。

大体は感想に書いているので省略しますが、8時間も掛かる長編でありながら、序盤から終盤まで一切退屈しないのは、本当にあり得ない出来栄えです。

自分は、石鹸チーズや識字率のやり取りによる現実との比較で面白さの感触を得て、地下に送られた辺りで最後まで面白いことを確信しました。情報の出し方、展開のさせ方が上手すぎる。

実は感想を書いた時点では、今一つ掴み切れていない感覚がありました。人物と事象が有機的に繋がる作品設定の巧みさ、そして頭のいい登場人物を書ける作者の頭の良さを考えると、舞台や人物の選択にも絶対に意味があるはずなのに、その手応えがなかったのです。

そのふわふわした部分は、作者様のサイトからリンクされていたこちらの感想を読んで、ようやく実感できました(解像度が高すぎる!)。

人の尊厳がテーマだったのか! だから人権意識の低い魔術の世界が舞台だったのか! このテーマなら現代が舞台だと絶対くどいですもんね。現実と比較させまくっている時点で気付くべきでした。

そして「カナちゃん→モナカちゃん→ルーシャさん」の連繋が見えたことで、足りないピースが嵌まりました。ルーシャさんがただの被害者として存在するわけがないんですよ。

感想を書く際には、なるべく気になる点も書くようにしているのですが、この作品の場合は書けることがありませんでした。クリスがちょっとうざいな、とは思いましたが、意味のある設定ですし、だからこそ序盤に出ない配慮もありますし。

キャラの名前が紛らわしい、というのも重箱の隅をつつくみたいになるので控えました。ルーシャさんとルーさん、カナちゃんとモナカちゃん、ロクスとクリス……こんがらがる!

たまに「全人類がプレイすべき」みたいな感想を目にしては「何言ってんだこいつ」とか思っていましたが、自分にとってはこの作品がそうでした。全人類がプレイしてほしい。

 
La Vie en Fleur
▶感想

プレイして衝撃を受けました。完成度が高すぎる!

絵が綺麗だな、と何気なくプレイしたらびっくり! 自分の思い描くファンタジーの理想形が突然目の前に現れました。無料でプレイできたのは何かの間違いだと思う。

物語で世界を作る人には一度触れてみてほしい、非常に完成度の高い作品です。本当に参考になる点しかない。

開幕に出てくる「馥郁」という語彙、そして節々から窺える筆力の高さから、「しっかり本を読んでいる方なんだな」というのが見えて、安心して読み進められました。これだけ書ける人なんだから、少々違和感があっても、そこには必ず理由がある、と分かるので。

最初の違和感に気付いたのは、ジェレミ君の「空色の瞳」という描写で、ここで「青を使ってないんだ!」と。そこから先は「あれ?」と思うたびに俯瞰して発見、の繰り返し。天然・鈍感な主人公は嫌う人も多そうですが、すぐ慣れると思います。

ロドルフ団長ってすごく悲しい存在だと思うんですよね。幼い頃に花章が芽吹くという設定からすると、もうその時点で顛末が決まっていたことになる。「愛する娘のいない世界で、長生きしろと?」は本当に悲しくて言葉が出なくなりました。

あと、リフィアちゃんの母親ってどれだけ美人だったのでしょうね。というか、何をどうしたらこんな素敵な子が生まれるんだろう。

今見返しても感想が長すぎてキモイなと思います。好意的に捉えてくださってありがとうございます。タイトルに関しては、紹介ページに読み方が書かれていると検索に引っかかるので助かるかな、と思いました。ラヴィアンで検索できると嬉しい。

リフィアちゃんの声がとろけるほど可愛い! そして、ダミアンさんの中の人、まんまやん! と思いました。

 
Vergunty  ヴァーガンティー
▶感想

一番情緒が掻き乱された作品です。こんなに涙が出るのか! って自分でも驚きました。あまり「泣いた」って感想を見ませんが、自分だけなんですかね。むちゃくちゃ泣きました。

とにかく、ままならないのが辛くて苦しく、本当に「どうしてこうなってしまったんだ」と強く思いました。これだけ関係がぐちゃぐちゃでも、取り立てて誰が悪いわけでもない。こういう話って組み立てるのが本当に難しいと思うので、実現できていることに深く感服しています。

全員の視点から心情が丁寧に描かれているので、綿貫も主人公というよりは視点キャラの一人という感じでした。なので、最後の選択肢も「主人公がどうするか」を選ぶというよりは「どうすればこの状態が収まるのか」という選び方に。

本作について特筆したいのは、高校生がちゃんと高校生で、大人がちゃんと大人なことで、これは結構すごいことだと思います。続編もマルチエンドの先がいろんな視点から書かれているのですが、書いていてよく混乱しないなと。作者の熟練ですよね。

実は「ももちゃん先輩を奪え!!」で結構な心理的ダメージを負っていたので、最初は本作も避けるつもりだったのですが、プレイできて本当に良かったです。

続編は、読むと感想が変わりそうだと思ったので、感想を書いてからプレイしましたが、本編で引っかかった箇所は全て拾われていたので、結果的にいらんことを書いただけになった気もします。

また、サブキャラに作者自身が声を当てているようですが、これは後半でジュンさんと一緒の時に出てきた友人かな、と推測します。違ったら恥ずかしいやつ。

中盤で明らかになる仕掛けは、その切り替え1つでどれだけの変化が起きたかを考えると、本当に卓越したものを感じます。あと、美月くんの声がピッタリすぎて、よく見つけてきたなって思います。

 
片恋スターマイン
▶感想

紫季先輩が好きすぎるんですよ。翔くんとイチャイチャしてるのを見てモヤモヤするくらい好きなんですよ。前作から、桃耶ちゃんのことが好きなのに一緒にいられないからと、自分がいなくなった後のことを考えてるのがたまらんのですよ。そのくせ突き放すこともできずに微妙な距離を保ち続けて、期間限定で付き合ってみたりして、強いのか弱いのか分からん人間らしさが大好きなんですよ。

感想を見れば分かるんですが、翔くんのルートを正常に読めてないんですよね。紫季先輩が好きすぎて。あ、これ紫季先輩のこと永遠に書けるな、とか思いながらも、長文キモイな、と整形してて削りすぎてるけど、

花火の後の「これは、紫季先輩にぎゅーってされたらいいなっていう、わたしの妄想なんです」がすごく好きで。観覧車での「この一瞬を、空間ごと切り取ることができたら~」もそうですが、気持ちを言葉で表現するのが本当に上手です。

で、その後の「じゃあ教えてくれ。お前は私にどうしろと言うんだ?」からの荒れる場面もすごく好きで。ここ、本人むちゃくちゃ考えながら威圧してるのが分かるんですよね。「お母さまのいいなり」は本当に急所だったと思う。紫季先輩にはそうする以外に平穏に暮らす術がなくて、なのに家の外では「しっかりした自分」を作り上げている。それってすごく立派なことで、だからこそ、ここに紫季先輩のプライドがあるはずなんです。そこを想い人から刺激されたのは、絶対に痛かったと思う。それが「あれだけお前を侮辱させておいて、何も言い返さない私に失望したのか?」という卑屈な台詞に表れて、傷付けたのが分かって苦しくなります。そして「男は気持ちがなくてもこういうことができる」なんて、ホント痛々しくて見てられない。

空港での桃耶ちゃんは、もうパーフェクトな解答だと思います。何も要求せずに「あなたは素敵です。ずっと味方です」は強すぎる。紫季先輩は今まで味方がいなかったでしょうし、それもあそこまで無下にした相手から言われてしまっては、そりゃ抵抗できないですって。

それにしても翔くん、家で翔くんのことが分からなかった時とか、居酒屋での「幼馴染みでよかった」のところとか、本当に辛そうな顔をしますよね。

関係ないけど紫季先輩、真夏に黒のジャケットは暑くないかな、ってちょっと心配してみたり。生地がいいのだろうか。

個人的な話ですが、昔書こうとした乙女ゲームのシナリオが「先輩⇔主人公←幼馴染み」の同じ構図で、これがどうやっても纏まらずに頓挫した過去がありまして、その正解を見せて頂いたような形でした。ただ、バッドエンドが本当にメンタル抉ってくるので辛かったです。まじで。

紫季先輩との出会いをありがとうございます。翔くんについては、そちらの専門家にお任せします。

 
ミラーリングサマー
▶感想

快作でした。純粋にシナリオのみで評価されるなら、グランプリあるんじゃないかと思っていました。

脳みそが一回転するのはこの作品だけ!

長々と感想を書いていますが、ぶっちゃけ全部蛇足です。富井サカナさんの書かれている「シナリオ一本でとんでもない破壊力の作品」これだけで充分です。だから書くか迷ったのですが、「長文で感想書いてる奴がいる」「序盤はじれったいけど我慢」の2点は伝わってほしくて書きました。

個人的に、この作品の感想を見るのがすごく楽しみなんですよ。読後の気持ちを共有したい。

こうしたどんでん返しものって、ミスディレクションを用いることが多いと思うんですよね。探偵行為をしているけど犯人は自分、みたいに、読者の意識を物語の目的に向かわせて、隠す謎から目を逸らす。

しかし、この作品の場合は物語が進まないので、必然的に謎に目が行くんです。じゃあバレるじゃん……なのですが、そこを「謎を何重にも重ねる」という非常にマッチョな方法で隠されています。謎に目が行って「見破った!」と思ってしまうから、その下に積み重なった謎に気付かない。

小手先ではなく真正面からパワーで伸されたので、自分はこの作品がすごく好きなのです。

 
初恋の後悔
▶感想

特別なことは何も起きない。一人の少年が成長し、少しずつ変化していく様を追っているだけなのに、なぜか目が離せなくなる不思議な作品です。

小さな気付き、周囲の変化、出会いと別れを繰り返して、最後に自分の持っていた違和感の正体に至る。劇的なことなど何もないのに、ただ素直に感動しました。読むと周囲との関係を見つめ直したくなります。

未完の後悔」は、それこそ道端に咲いた花を捉えた写真のような作品で、個人的にはあまり響かなかったので、こちらも期待値は低かったのですが、大きく飛び越えてくれました。

読めてよかった、と心から思えるタイプの作品です。

 
擬態する群衆
▶感想

すごく面白かったのです。見事に1話目から、がっちり心を掴んでくれました。そして誰の感想もついていなかったので、喜び勇んで書いてしまいましたが、かなりネタバレっぽい書き方をしてしまっているので、少し反省もあります。

書き漏らしたこととして、3話(ミニスカートの女性)が導入からびっくりするほど面白いんですよ。強力な謎でぐいぐい引っ張られて「これどうなるんだ!?」と読み進めたところ、オチにちょっと捻りが効きすぎた感じでした。最後に明かされる真実からすると、序盤の行動が意味不明になってしまうので、そこだけ少しモヤモヤしました。

人間らしく」も読みましたが、こちらは短さゆえにありきたりに落ち着いてしまった印象でした。

 
偽りの夢
▶感想

この作品をプレイしたのは、同作者の「擬態する群衆」よりも前で、その時に物凄く強い衝撃を受けてしまったのです。何とか感想を書きたかったのだけれど、その感動を表現する言葉を持ち合わせていませんでした。

なので、まずは感想を書くことに慣れようと、他の作品をプレイして、数ヶ月寝かせて、改めてプレイして、やっぱり心が抉られて、ようやく納得のいく感想を書けたと思いきや、それでも見当違いなことを書いてしまった気がしています。

物語は一見、修司の視点で進みます。物語の動きが「ヤマアラシのジレンマ」なんですよ。修司は創作を見せる怖さと、香澄の二面性への不信感から、チクチクと距離を測ります。そして教室でノートを落として笑われて、一旦心を閉じるのですが、香澄は自分の創作という腹を見せてくれました。だからこちらも、と腹を見せたところで強烈な裏切りが来ます。とても苦しい。

でも、これは裏切った香澄の物語だったのです。自分の行いを笑われたり貶されたり、そういう痛みの物語に見せかけて、その実、傷付けた後悔と失ったものの大きさを嘆く物語。ここを芯に据えた物語には出会ったことがなかったので、過去の痛みに突き刺さって、喉の奥から脂の塊を捻り出すように苦しかったです。

傷付けられる受動的な痛みってどうしようもないので、いずれは和らぐんですよ。でも能動的に行ったことへの後悔って、ずっと残るんですよね。全ての責任が自分にあるから、逃がしようがないんです。

最初は香澄の後悔が刺さりすぎて「物語の中でくらい報われてくれ」と思ったのですが、最後に満たされてしまったら「後悔の痛み」という主題が薄れてしまうので、後悔を抱えたまま前を向くという今の終わり方が、とても好ましく思います。

現実と作中作をリンクさせて、はっきりと書かずに表現しているのが巧みですよね。作者の確かな実力を感じます。この方の書く話をもっと読みたいです。

 
第12動画欠番【完全版】
▶感想

「これ何も受賞しないの!?」と驚きました。万人受けしない&プロっぽさが強いからですかね。唯一無二の存在感を放つ作品で、この作品から受ける衝撃は、他の作品からでは決して得られません。

プレイしていると、何とも言えない恐怖が襲ってきます。恐らくは、境界の揺らぎが効果的に使われているせいだろうと思います。感想にも書きましたが、自分がどこにいるのか、何をしているのか、どんどん分からなくなるんです。攻略難易度は高いですが、このプレイ感覚はぜひ味わってほしいです。

 
風待ち人 夢追い人
▶感想

すごく好きな作品です。読むと非常に前向きな気持ちになれます。

夢を追って叶える主人公を素晴らしいと褒めそやす作品は多々ありますが、じゃあ叶わないとダメなのか、夢がないのはダメなのか、とそんな曖昧な気持ちに寄り添ってくれます。夢を追って笑われる人や、できた空白を嘆く人、そして夢らしい夢を持たない人。そういう人の心の閊えを少しだけ掬い上げてくれるのです。

感想が何だか片言なのは、かなり早い段階から感想の下書きをしていたものの、どうにも上手く書けず、バージョンアップを期に改めてプレイして、ツギハギしながら書いたからです(汗) 動画のクオリティがぐんと上がってた。そしてタイトル画面も変わってた。

前作は2作ともプレイ済み。日常を面白い切り取り方をする作者、という認識です。

 
私の執事ジェラルド
▶感想

すごく好きな作品なんですよね。金髪碧眼が好きなのもありますが。

佳作に選ばれなかったのは、上が強かったからですかね。身分差も選択ビターもありましたし。ふりーむとか夢現とかも見たけど全然感想が付いてないの何で。面白いですよ、この作品。

すごいなと思うのは、開幕からおちょくってくるジェラルドですが、全く嫌味を感じないんですよね。「何でこうなるのよ!!」とか「もうヤダー!」とか、ナタリアの反応が合わさって、上手くコメディに収まっているんです。ここのバランスは相当に気を遣っただろうな、と感じます。

気になる点としては、感想でも軽く触れていますが、やはり正面から両親に説得するシーンは欲しかったです。個人的にEND3は、その過激さからあまり印象が良くなくて、3つ目は誠実さを選ぶENDだと思っていました。両親が酷い人間なら、何も言わずに犠牲にしても良いですが、見る限りそうではありませんからね。

ところで、内容と直接は関係ないのですが、茶単猫ってかなり珍しいですよね。

 
嘘つきジョアンナと春の雪
▶感想

短いのに、とても濃密な物語です。短編としての完成度の高さが飛び抜けていると感じました。

「物語の面白さは変化の大きさで決まる」というのは持論ですが、これがあらゆる面に表れています。最初と最後で、どれだけのものが変化したか。主人公だったり、兄や友達との関係だったり、世界そのものだったり。そして、それが画像や音楽によって、見える形で表現されています。

感想が上手くまとまらず、箇条書きになっているのが恥ずかしいですね。

 
不死身の英知
▶感想

エンタメの極致。

プレイ時間は30分くらいなのに、内容量が非常に多い。進むたびに問題が起きて、それを彼らなりの方法で解決して、また状況が変わって問題が発生する。それがひたすらに積み重なって、圧倒的な勢いで突き進んでいく。

プレイした感触は、まるで映画を1本見たかのようでした。普通に書いたら2時間ものだと思うんですが、なぜこの時間に収まっているんだろう。

しかも、決してただ面白いだけではなく、きちんとテーマがあるのが好みです。人権のない世界から脱出して生き延びたはずなのに、戸籍がないから社会的には死んでいる状態、そして主人公は不死身だから死なない、というジレンマがとにかく面白い。本当に最後の結末まで見たかったです。

Live2Dでキャラクタがぬるぬる動くので、それだけでも満足できると思います。

 
さらば劇薬
▶感想

これも受賞しないとは思いませんでした。内容を作品として、とても上手に表現されています。

画面全体を使った選択肢のお蔭で、作品の雰囲気が一切壊れることなく物語が変化していきます。読んでいる側としては、完全に作品の世界に呑み込まれてしまっているんですよ。

そして最後に明かされる真実。そういうことだったのか! と衝撃でした。