*TGF2020*
 
お前のスパチャで世界を救え
▶感想

グランプリは意外でしたが、納得できるチョイスですよね。

圧倒的な集客力はもちろん、目を引くテーマがあって、分かりやすい目的があって、にあちゃんが可愛くて、グラの演出力が高くて、文章は読みやすくて、エンド分岐も豊富で、ラストに捻りも効いていて、プレイ時間も適度で。

この「入りやすい・触れやすい」というのは、作品数が膨大になるに連れて絶対的に必要になる要素ですから、ここをバッチリ決めているのは強いな、という印象です。

 
僕らのノベルゲーム

テーマがずるいですよね。絶対に響きますもん。しかし同時に、非常に高いレベルが要求されることになるので、成立させたのはすごいなと思います。

序盤のゲームの完成に向かって皆で進んでいくところ、本当にわくわくするんですよね。放課後の男女混合の部活、学園祭、夏合宿、恋愛など、青春要素の宝庫。そして谷口さんが(1箇所を除き)全編に亘って一々尤もで深く共感できました。終盤での「名前を載せられるんだったら、ふざけたものを作られたらたまらない」が大好きで、これは本当に強く頷きました(が、出すと揉めるので自分はいつも控えます)。更には、揉めて崩壊した時の虚無感に胸が痛み、鬼瓦さんのナイスアシスト! からの全体が見える演出! で目頭が熱くなります。

……というのは2回目での話。1回目はちょっと無理でした。

シナリオ決めでの谷口さんの「そもそも自分の感情が分からない人間なんて、本当にいるの?」が謎なんですよ。これを言い出したら魔法がアウトなので。ここで、谷口さんの指摘から正当性が損なわれて、創作者としての価値が下がってしまう。表現するのが難しいという指摘に留めるか、勢い余って突っ込んでしまったと落とすか。フォローは必要かな、と思いました。出鼻を挫かれてしまった印象です。

後半のレストランのシーンですが、本当に問題なのは、ここで過剰にタツを責めたことではなく、その後で「めちゃくちゃになったのは合作のせいだ」と責任転嫁して創作を投げ捨てた部分ですよね。タツを無責任だと責め立てた新平が責任転嫁を始めるから、不快感がかなり強い。そして、この部分が物語でフォローされないままハッピーエンドを迎えてしまうので、何だか据わりの悪さが残りました。主人公が間違える場合には、やはり間違いに気付いて改めるまで欲しいです。

以下は余談ですが、いろんな要素が悪いほうに絡まりすぎていると思うんですよね。新平が抱いた不満に「苦労は皆が等しくすべき」がありますが、そもそもの作品制作に懸ける熱量って個人差がありますよね。タツの熱量の低下もありますが、まず新平の制作への熱量が常人より強く、加えて「長年温めてきた作品」という想いまで上乗せされていますから。

前提が違うのに結果を等しくしようとすると、どうしても無理が出てきます。この不満が攻撃に向かってしまったら、それはもう木下君と同じだと思うんですよ。木下君の「創作への無理解」がここに通じていて、どちらも「自分と他人の違いを認めず、他人に自分と同じであることを求めて」います。そうすると、作品内で木下君を悪人として描いたなら、新平も巻き込まれてしまうんです。しかし、新平はこの歪みを内省せずに作品の世界に認められて終わります。

こうして「タツばかり斟酌されている」と不平を抱いた「新平が物語に贔屓されている」状態にあることも、違和感を増幅させている一因な気がします。

木下君の存在は交通事故のようなものなので、ラストは何か信念を持って登場すれば印象も変わったのかなぁ、と思います。王道としては、上記の歪みを内省して生まれ変わった新平が打ち倒す、みたいな。

いろいろと書きましたが、作品自体のクオリティは高く、共感できる箇所も多いので、多くの人が満遍なく楽しめると思います。過去作の感想を漁ったり、心ない感想に滅入ったり、制作者あるあるですよね。

この作者様の過去作は、たぶん全てプレイしています。「眠れない夜に」は「そんな手があるのか!」と衝撃でした。

 
パーソナル・スペース

これは盛大に読み方を間違えた気がします。

シロエの登場時点で「長い時間を経て知能指数が下がった何かだな」と分かるので、彼女自身にはあまり興味が持てず、「彼女をどうするのか」という主人公との未来に意識が向かったのですが、本編で語られたのはシロエの過去だったので、すれ違いが起きてしまいました。

恐らく、重要なのは「シロエという存在にどれだけ興味を持てるか」だと思うので、そこを取り逃したために上手く入り込めなかったのかな、と感じています。

シロエの正体とか、星のエネルギーとか、そういうSFらしさは素直に読めました。そして、主人公の存在意義に繋がった瞬間の閃きは強かったです。ただ、最後の解決が勘違いなので、それでよかったのかな、と不安に思う部分もあります。

前作の「初恋は年齢天秤の中で」も、序盤は「キーアイテムの年齢天秤はいつ使うんだ」とかなりもどかしさを感じていたので、作者様と私とでは、興味を持つポイントにズレがあるのかもしれません。こちらも、最後に天秤が釣り合う瞬間の閃きは素晴らしかったです。

 
そして僕らは世界を壊す

これは感想を見て「自作と設定が被ってるんじゃないか」と不安になってプレイした作品でした。実際には被ってるとか、そういうレベルの話ではありませんでしたが。

前半が終わって後半に移る瞬間の世界の広がりがとても印象的でした。

序盤は二人の関係が歪で感情移入しづらくて、流す感じで読んでいましたが、隆之介くんが死んでしまって。で、助けるために試行錯誤する話なんだな、と思ったのですが、どうやっても助からないんですよね(そして必ず劇的な死に方をする)。そこに謎の男が現れて深まった謎が、明かされた秘密と共に浮かび上がる。ここからが本番であり、夢中になった箇所でもあります。そして邑井さんが可愛い。月並みな感想しか書けませんね。

結局のところ、自分は最後まで梓くんに共感できなかったんですよね。何がそこまで梓くんを隆之介くんに執着させるのか(愛という感想をよく見かけますが、自分は執着だと思います)。そして、救われたり諦めたりする結論が出ない結末である理由も呑み込めていません。

恐らくは、作品を通して作者様の描きたかった想いにまで、私の理解が及んでいないのだと思います(なので感想が書けませんでした)。ここに手が届けば「切ない物語」という読後感以上の感情が得られそうです。

ヒロインを救う話のほうが入り込みやすいのでは、とは思いましたが、それだと邑井さんの立場が危ぶまれるので今の形なのかな、と考えています。

選択肢の蝶モチーフはバタフライエフェクトを想起させます。時間の表示も含め、こういう細かいこだわりが好きです。

 
リベリオン・ヒーローズ
▶感想

優しい世界。画面クオリティが高く、安心して楽しめます。ただ二人の様子に「かわいい!」ができる。難しいことを考えずにゆるりと楽しめる、こういう作品は貴重ですね。

素直な作品ゆえに取り立てて書くことがあまりないので、どうしても感想は短くなってしまいますが、それも美点だなぁと思っています。

 
Mermaid princess ~人魚姫と2人の王子様~
▶感想

画面クオリティが高く、変な捻りがないので、安心して楽しめます。主人公と王子2人が交流して距離を縮めていく様が優しく楽しげに描かれていて、またそれを彩るスチルが本当に綺麗で印象的でした。空気感がとてもいい。

感想では省略しましたが「砂浜に字を書いて、互いの言葉を教え合う」というのは、好きエピソードのかなり上位に入ります。

王子を取り巻く御家騒動の物語と比べて、王子との恋愛の決着がさっぱりしているので、そこが勿体ないなぁとは感じました。とはいえ、この「勿体ない」という感想は「もっと見たかった」というポジティブな理由なので、あまりお気になさらずに。

 
モブだけど、主人公くんを好きになってもいいですか?

クオリティが高く、安心してプレイできます。良い意味で癖がなく、良くも悪くも、無料のゲームっぽくない感じです。

ただ、個人的には全体のクオリティが高い分、シナリオに物足りなさがありました(自分が日常描写が苦手だから、というのもありますが)。

「恋愛とは劇的なものである」という思い込みに主人公が気付くまでの話……なのですが、それは読者には無関係な、主人公だけの問題ですので、引き込む力が弱く感じます。この問題が表面化して解決するラストの流れは鮮やかなので、何もない状態が終盤まで続くのは惜しいなと。開幕から未空ちゃんは可愛いし、好意もだだ漏れですので、本当に主人公が一声掛ければ済む状態なんですよね。自分なら「序盤からこの思い込みゆえに起きる問題で選択を誤り、最後に気付いて取り直す」という形にシナリオを組むと思います。(雰囲気は変わってしまうので、あくまで自分ならですが)

自分は黒髪ボブが大好きなので未空ちゃん一直線でしたが、もしかすると、栞さんが好みだった場合には読んだ印象が異なるのかもしれません。

 
願い星は少年の形をしている
▶感想

審査員特別賞おめでとうございます。

ちょっと乱暴な書き方をしますが、この手の根暗で死にたがりの少女が主人公の作品は食傷気味でした。が、本作は話の作りや要素の使い方が本当に上手なので、密かに応援しておりました。殊更に鬱屈とした様を描くわけでもなく、誰かに救われる話を書くわけでもなく、ちゃんと一歩歩き出す話なんですよね。

そして、この一風変わったタイトルが「まさに」とバッチリ嵌まるので、とても気持ちの良い作品でした。

 
死ぬよりもつらいこと

「自殺による喪失からの回復」という難しいテーマでよく書いたなと思います。この重いテーマに真正面から向き合うなら、適当なことは書けませんし。

ただ、読み手としては、どこに意識を置けばいいのかに迷った印象でした。いろんなケースの疑似体験・実例集として読む分には良さそうですが、「どこに問題があって、なぜ救われたのか」が分かりづらかった感じです。こういう事例の場合は「気持ちを共有できる人がいる」と知ることが最も回復の手助けになるのでしょうが、もう一歩踏み込んでほしかったようにも思います。

あとは、強いテーマを込めるほど、作品(特に見た目)のクオリティは高く保つ必要があるな、とは改めて感じました。そうでないと、本当に届けたい人には届かない。この辺りはノベコレでも書かれているので詳細は控えます。

また、個人的にはタイトルが少し引っ掛かります。生と死を対比して、生きるか死ぬかの二元論みたいになっているのは好ましくないような。生きるか死ぬかではなく、生きることは大前提として考えなければならないと思っております。

 
対象She-11に関する記録
▶感想

珍しいロボットもの。とても濃密な1時間を過ごせます。

感想は既に書いているので大まかには省略しますが、この作品のシナリオで特に印象的だと思うのは、

最後の選択でヒロインを選んだはずなのに、世界が救われてしまったことですよね。なんと無情な……。

前面にはヒロインとの交流が描かれていますが、生きることに精一杯だった主人公が生きる目的を見つける、というストーリーラインが本当に好きです。

それにしても、シェルの恰好がこう……エロくてですね、目が滑るんですよ。そこがね、ちょっとね。

 
点鬼簿行路
▶感想

不気味で怖い。選択肢でヒェッとなる。主役が2人とも何を考えているのかが見えない点が、やはり不気味さを際立たせているのだと思います。それが最後に明かされて、切ない余韻に変わるのが見事だなと感じました。

ちなみに、イラストの美しさが際立っていて、小夏さんの髪なんて触ってみたいと思えるくらいです。こんな感情を抱かせる絵ってすごい。

 
フィルム・ラプンツェル

感想に「芸術のよう」という書き込みも見られましたが、読者の感情移入を拒むような作りなんですよね。眺めることはできるけれど、触れることはできないような。

小絢が祭里に好意を寄せる理由とか、伊織との同棲中の行為の理由とか、飲み込みづらいところが多くありました。自分はもっと登場人物に感情移入したいほうなので、好みの作風ではないのですが、引力が非常に強い不思議な魅力があります。

「面白かった!」とか「感動した!」とかではないのですが、なぜだか意識から離せない作品です。

 
君は夜明けの星になる
▶感想

登場人物たちの感情が、とても生き生きと伝わってくるので、プレイしていて楽しかったです。食堂のスチルの場面とか、本当に楽しそう。食べに行きたい。

何か登録が必要だったので裏話が見れていなくて感想からは省いたのですが、タイトルがすごく印象的だなと思います。昼しかない太陽の国と、夜しかない月の国……ということは、この世界に夜明けなんてものは存在しないんですよね。だから「夜明けの星」は完全に比喩で、「昼と夜の国を新たな時代へ繋ぐ希望の星」的な意味かな、と勝手に想像しております。

眉について書いたのは揶揄してるようにも見えそうな不安もあるので補足しますが、これはデフォルメの話になります。

デフォルメって要するに「重要な部分を特化させる」作業で、例えば棒人間は「体の動きを伝える」という部分に特化しています。顔の場合「表情を伝える」ことに特化させるなら、例えば鼻は動かないので省略していいことになります。

その観点から見ると、眉って結構動くんですよね。なのに、ほぼ省略されて線で描かれることが多いので勿体ないなぁ、と常々思っていたのです。

 
夕暮倶楽部

グラフィックの作り込みに感動!

そして、チャット形式で物語が進みます。しかし、その分、会話の裏を推量しながら読むことになるので、長めのプレイ時間も相俟って、言語外情報の多さに疲れてしまいました。こればっかりは相性の問題なので、致し方なく……。雰囲気はすごく良いのに、内容が頭に入ってこないんだ。

皆さん絶賛されていて、自分もその感動に触れたかったです。

 
GARAKTA ROCKERS
▶感想

ポップなイラスト、バッチリ立った個性的なキャラクター、そして熱い展開!
くっぴー大好きです。

文章は枠の広さや、それに対する文字の小ささでやや読みづらさはありましたが、この辺りは作者さんのサイトを見る限り改善される見込み。今は「第一部、完!」みたいなところで終わってしまっているので、次回作が楽しみです。

 
シリアルキラーの名前
▶感想

読んで得た感情を言語化するのがすごく難しい作品でした。

大体は感想に書いたので割愛しますが、この作品の場合は、やはり序盤が鬼門だと思います。内容以上に、手触りでかなり人を選ぶ作品です。絵柄は癖が強いですし、BGMも寂しい箇所が多いので、ボイスにも聞きづらさが生まれてしまう(ボイスはある程度BGMに紛れさせないと聞きづらい)。OP動画が割と高い壁で、正直、一度ここで断念しかけました(微妙に音程やリズムがずれていて不安になる)。

ただ、それ以上に、強い熱量を感じる作品でもあります。上記もあって、決して絶賛できるわけではないのですが、読んで良かったとは思えました。個人的な思いを述べるなら、もっと絶賛して勧められるように作品が洗練されてほしいです。

ノベコレの感想から省いた内容に触れていくと、ジョンの黒い服を選びがちな心理は結構分かるんですよね。自分にも心理的に明るい服を着れない時期がありました。その点、マリモはすごいですよね。ピンクのトレーナーは自分には着れない! 靴下もピンク! ファッション誌を参考にして、なぜこうなったんだろう?笑

クラゲは何かの比喩だったんでしょうか。あえて出したからには理由がありそうなので。クラゲが好きな人の話に「生き物っぽくないから好き」というのは聞いたことがあります。本編で触れられたのはミズクラゲと花笠クラゲくらいでしたが、背景にはウリクラゲやタコクラゲがいるなあ、と思っていたらエンディングに名前がありました。あと、クラゲを食べられる水族館は実在するんですよね。

シナリオの気になった点としては、一人目は事故だったわけですが、二人目は故意の殺人です。ここに少し飛躍を感じたので、最初の死に何を感じて二人目へと駆り立てたのかは知りたかったですね。これはノベコレに書けばよかったな。

後書きで触れられていた「元になった実話」は、恐らくジェフリー・ダーマーかなと思うので(いろいろと要素が似ている)、読んだ方は調べてみると理解が深まるかもしれません。

人が正常に育つためには何が必要なのか、抑圧されたマイノリティはどうすればいいのか、思考を巡らせてしまう作品でした。